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  • 花林舎動物記 第4回 ボーフラとオタマジャクシの知られざる効用

    2008年9月30日花林舎

     6月から「花林舎動物記」という楽しい動物のお話を読み切りで掲載しています。この「花林舎動物記」とは、滝沢村にある(株)野田坂緑研究所発行(所長 野田坂伸也氏)の会員限定情報誌「花林舎ガーデニング便り」の中で最も人気がある連載記事です。今月は第4回「ボーフラとオタマジャクシの知られざる効用」です。


    ボーフラとオタマジャクシの共通点
     
    近ごろの子どもでもオタマジャクシ(以下オタマ)は知っているでしょうが、ボーフラは知らない子がほとんどではないでしょうか。
     ボーフラは頭を下にして水面に浮いていますが、人が近づく気配を察すると底に沈んで隠れてしまいます。しかし、空気呼吸するのでやがて息苦しさに耐えかねてまた水面に浮いてきます。それを小皿などでパッとすくいとって集めては、金魚の餌としてやったものです。
     憎い蚊の幼虫ですが、ノロマでユーモラスで必死になって隠れようとする姿がいじらしくてかわいい生きものです。
     オタマも、頭でっかちで泥土の上を這いずり廻っている姿が、まことに単純でかわいく、子ども達の人気の的です。魚と違って子どもでも容易に捕らえられるのが楽しいのでしょう。
     ある時、山登りの途中で小さく浅い水溜りに底が黒く見えるほどオタマがいたので、一休みしながらしばらく見ていたのですが、気がつくと小さい蛇が1匹やってきてパクリ、パクリとオタマを食い始めました。オタマは水溜りから出られませんから、逃げようがありません。私はいたたまれなくなってそこを去りましたが、あれほどいたオタマもきっと全滅したのではないでしょうか。
     大きい蛇は蛙を食べ、小さい蛇はオタマを食う。なんとむごいことでしょう。もっとも大きいガマガエルが小さい蛇を呑み込むこともたまにはあるそうですが。
     話が脱線してしまいました。ボーフラもオタマも幼生期には水中で過ごし、成長すると水から出るという点が共通しています。また、幼生期の姿と成長後の姿がまるで似ていない点も同じです。

    ボーフラの食物
     ボーフラは泳ぐ力は弱いので流水には棲めませんが、溜まり水であればあらゆるところにいます。これまでに一番驚いたのは、トンテンカンテンと農具を作る鍛冶屋さんが、真っ赤になった鉄をジュッと冷やすための水桶の中の水に浮かんでいたボーフラを見たときです。ゆだってしまわないのだろうか、いったい何を食べて生きているのだろうか、と誠に不思議に思いました。
     ボーフラが水溜りにいることは知っていても、何を食べて生きているのだろうとまでは考えない人がほとんどではないでしょうか。
     ボーフラを透明なコップなどに入れてそこに金魚の餌を落としてやると、ボーフラは時々沈んでいってこれを食べます。倍率の高い虫メガネで見るとボーフラの口が見えるでしょう。私は肉眼でしか観察したことがありませんが、子どもの夏休みの研究としてなかなか面白いテーマだと思います。
     私の推論では、ボーフラは水の中の汚物を食べているのです。水の中に浮かんで漂っている汚れ、底に沈んだ汚物(必ずしも〝汚いもの〟とは限りませんが)を小さな口でチョンチョンと突っついているのです。

    雲霞のごときボーフラの群れ
     我が家の台所、風呂、洗面所、水洗トイレの排水は小さい溜池に流し込まれ、ゆっくりと流れていく間に浄化されます。この池は冬も凍らないよう屋根をかけてあります。
     今は、敷地の端に細い流れにしてありますが、以前は全体が正方形で、その中を仕切り板で区切り、曲がりくねって長い距離を流れるようにしてありました。ここに、夏になるとものすごい数のボーフラが発生しました。ちょっと見ると水が黒くなったように見えるのですが、私が近づいて黒雲のようなものが一斉に沈んで透明な水に変わるのです。何万匹か何十万匹かのボーフラが浮いているのです。まさしく〝雲霞のごとし〟という形容がぴったりです。
     そして、ボーフラの大群が現れると、汚水池の水は急速にきれいになるのでした。これはボーフラが水中の汚れ物質を食べてくれたからだと解釈するのが妥当でしょう。1匹1匹は小さくても、これだけの数になりますと汚水浄化にかなりの力を発揮するのです。「神はこの世に無用なものは作らなかった」という言葉がふと浮かびました。
     こうして我が家の汚水処理池は夏になると本当に透明な澄んだ水になったのです。水中に棲んでいますが、ボーフラは水面に浮き上がって空気呼吸するので、かなり汚れた水でも生きていけるのです。
     はるかに汚れて、汚物がドロドロしているようなところには、ハエの幼虫(ウジ)やハナアブの幼虫(尻尾のあるウジ)がうごめいています。抗菌グッズでないと受け付けない近ごろの清潔好きの若者が見たら卒倒しそうな光景ですが、「ハエのウジを使って汚物を食べさせ、そのハエをきれいに洗ってから人間の食料に・・・(あ、いや、もうやめましょう)」という研究をしている国がある、と何かの雑誌で見て、私はひどく感心したのです。さすがの私もそこまでは思いつかなかったものですから。
     話は再び脱線しますが、傷口が化膿した時、ハエのウジに膿を食べてもらって傷を治すという方法が外国の医術としてはかなり普及していて、最近日本でも研究が始まったと、これは大新聞で読みましたので、記憶しておられる方もいらっしゃるでしょう。

    オタマジャクシも汚れを食べる
     我が家の最初の汚水浄化池は素掘りの池でした。つまり、地面に穴を掘っただけのところに汚水を流し込んでいたのです。出口はありません。火山灰土の黒土層を直径3メートル、深さ80センチほど掘っただけですから、初めは水がドンドン染み込んで無くなりましたが、しだいに漏らなくなり、50センチくらいの深さの池になりました。底には軟らかい黒いヘドロが溜まっています。
     この汚水の中に、夏になると大きなオタマがたくさん泳いでいるのです。毎年早春の雪解けの清澄な水の中に、蛙の卵が産み出されているのを見ていましたので、オタマは春早く生まれ、きれいな水の中で育つと思い込んでいたのですが、蛙の種類によっていろいろなようです。
     それにしてもこんな汚水の中でオタマが平気で生きている、ということにびっくりしました。何しろ初めは透明度が5センチも無く、何かが時々浮き上がってきては反転して、水中に潜っていくことがわかるのですが、その姿はほとんど見えないくらい水が濁っているのです。ドジョウもこういう行動をしますが、こんな所に自然発生するはずがありませんからオタマであろう、という推測はつくものの、半信半疑でいました。
     それが、だんだん水が澄んできて夏の終わり頃には水深50センチの底まですっかり見えるようになり、間違いなく多数のオタマが棲息しているのです。かなり大きいオタマで多分トノサマガエルの子どもでしょう。
     オタマが水をきれいにする力を持っていることは前から知っていましたが、これほどの力を持っていた、というのは驚きでした。当時は我が家は親子5人で生活していましたが、夏の間だけとはいえ、汚水が全く透明になってしまったのですから。
     オタマの汚水浄化力をなんとか活用できないものでしょうか。次号では私の「空想(あるいは妄想)汚水浄化生物園」の話をしたいと思います。乞う御期待。
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