花林舎動物記 第8回ウメ太郎は何処に〈その2〉

花林舎動物記
 平成20年6月から「花林舎動物記」という楽しい動物のお話を読み切りで掲載しています。この「花林舎動物記」とは、滝沢村にある(株)野田坂緑研究所発行(所長 野田坂伸也氏)の会員限定情報誌「花林舎ガーデニング便り」の中で最も人気がある連載記事です。今月は第8回「ウメ太郎は何処に〈その2〉」です。

第8回ウメ太郎は何処に〈その2〉

マンサクの失踪
 仔犬達もすっかり成長し、多分人間で言えば20代になった頃、親子5匹の犬を連れて山林内の道を散歩していました。すると突然犬達が一斉に森の中に駆け込んでいきましたが、何事かと思う間もなく、1匹の狐が私のすぐ目の前5メートルくらいのところを、一瞬空を飛んだのかと錯覚したほど素晴らしい跳躍力で道路の上を左から右へ飛び越え、たちまち森の奥へ消えてしまいました。
 と、それに驚いている暇もなく、今度は我が家の犬達がドヤドヤと現れて、吐く息も荒々しく狐の後を追って突進していきました。
 しかし、毎日「食っちゃ寝」で過ごしている犬達の走力は狐にはとうてい及ばず、しばらくするとハーハー言いながら戻ってきたのですが、スピッツのような華奢な身体をしていたマンサクだけは、いつまでも戻ってこなかったのです。私は狡猾な狐の策略にはまって逆に餌食にされてしまったのではないかと想像しているのですが、真相は調べようもありません。

初めは5匹いた犬も、今は2匹だけになってしまいました
初めは5匹いた犬も、今は2匹だけになってしまいました。




ツバキの突然死

 それからまた数年経ち、ツバキとウメ太郎は10才近くになりました。人間でいえば50代に相当する年齢です。この2匹はフィラリアに感染していて、ウメ太郎は走るとゼーゼー咳をしますし、ツバキはドンドン痩せていきました。
 ツバキはこの頃孤独を好むようになり、食事の時に呼ぶと現れるのですが、それ以外の時は何処にいるのか姿を見せないような生活をしていました。といっても遠くに行くのではなく、その辺にいるようなのですが、何処で寝ているのかもわかりません。
 そしてある日の夕方、私が仕事から帰って来ると家の前の麦畑の中で死んでいました。外傷は無く、苦しんだ様子も見えませんでした。フィラリアに罹った犬は、重くなると突然死することがある、と聞いていましたのできっとそれが死因だろう、ということにしました。

 昼寝の時も、父親のウメ太郎はいばっていました。
昼寝の時も、父親のウメ太郎はいばっていました。
 


犬達との散歩
 こうして5匹の犬は3匹になってしまいました。ウメ太郎は連れ合いを亡くして悲嘆に暮れるかと心配したのですが、晩年は実質別居生活でしたから、さほど落ち込んだ様子もありませんでした。
 ウメ太郎は散歩が好きで、私が家に居ると必ず夕方4時ごろにはやってきて散歩に行こうと催促するのです。
 事務所に入ってきて「もう散歩の時間ですよ」、という目付きで私の顔をじっと見つめます。知らん顔しているとじれてヒョイヒョイと踊るようなしぐさをします。それでも動かないと、クーンと悲痛な声を出します。
 ここまでやられると飼い主としては無視できなくなります。「散歩行くか」と言って立ち上がると、もう嬉しくてたまりません。5~6メートルの円を描いて駆け巡った後、頭を下げて上目づかいに私をにらんでワンと叫ぶのです。
 そこで私が外へ出て「さんぽー」と大声で呼ぶと、スグリとタンポポがしぶしぶやって来ます。ウメ太郎は嬉しくてたまりませんから、ここでものぐさ息子のスグリをひと噛みして親父の威厳を示そうとします。スグリも毎度のことですからこの時ばかりはパッと逃げますが、ウメ太郎はしつこく追いかけて、それからやっと散歩が始まります。タンポポはあまり親父に従順なのでいじめ甲斐が無いらしく、ウメ太郎は相手にしません。
 こうして山の中の道を往復2~3キロ歩いてくるのですが、犬達は私には感じられない何かの気配を察知して時々森の中へ駆け込みます。たいていはすぐ戻ってくるのですが、ドンドンいってしまいすぐには戻ってこないこともあります。こんな時は私は散歩を止めて先に家に帰るのですが、犬達もたいてい30分もすれば帰ってきます。

私が子どもの頃、家で飼っていた犬は、不思議なことにウメ太郎にそっくりでした
 私が子どもの頃、家で飼っていた犬は、
不思議なことにウメ太郎にそっくりでした。


ウメ太郎は何処に

 ところが去年の6月10日ウメ太郎は散歩の途中で姿が見えなくなり、そのまま消えてしまいました。夕方散歩に行ってスグリとタンポポは一緒に帰ってきたのに、ウメ太郎は1時間経っても2時間経っても戻らず、とうとう真っ暗になってしまったのに帰ってきません。こんなことは一度もありませんでしたから、私にはウメ太郎の身に何かが起こって、もう戻らないということはすぐにわかりました。
 実は散歩の時ちょっと気になったことが1つありました。犬達は健脚ですから私が歩く限り何キロでも一緒に来ます。犬達の方から、「疲れたからもう散歩を止めて帰りましょう」というしぐさをすることは、ものぐさスグリ以外には無かったのです。
 ところがこの日、ウメ太郎は家から1.5キロほど行ったカラマツ林の端で突然立ち止まり、私を振り返りジッと私の目を見つめました。それは、「もう戻りましょう」と言っているように私には思えたのです。
 それで、その日の散歩はそこでやめて帰ったのですが、ウメ太郎がどうしてあそこで戻ろうとしたのか気になっていたのです。何か身体に異変を感じて歩くのがおっくうになったのかも知れません。ウメ太郎は帰り道の途中ひとりでトコトコと森の中に入って行ったのですが、そんなことはどの犬もしょっちゅうやっていることですから、私は気にもとめず帰ってきました。あの時ウメ太郎がどっちに行くのかしばらく見ていれば良かった、と後で思ったのですが。
 次の日、その辺りの山の中を探してみたのですが、見つかるわけはありません。翌日と翌々日、また20日くらい経ってからウメ太郎がひょっこりと帰ってきた夢を見ましたが、その後は一度も現れません。もうすっかりあの世に行ってしまったのでしょう。
 そして仏様に別の犬に生まれ変わってまたあの山の中の家で暮したい、とお願いしている、と私は信じています。


 雪と遊ぶウメ太郎
雪と遊ぶウメ太郎

 タンポポ(左)とスグリ(右)。今はこの2匹と暮らしています。
タンポポ(左)とスグリ(右)。
今はこの2匹と暮らしています。



第7回ウメ太郎は何処に〈その1〉
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このページは、管理者が2009年1月29日 17:09に書いたブログ記事です。

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