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  • 第20回ネズミは至る所に―(1)

    2010年6月29日花林舎

    花林舎動物記
     平成20年6月から「花林舎動物記」という楽しい動物のお話を読み切りで掲載しています。「花林舎動物記」とは、滝沢村にある(株)野田坂緑研究所発行(所長 野田坂伸也氏)の会員限定情報誌「花林舎ガーデニング便り」の中で最も人気がある連載記事です。
     前回まで『すこやかな暮らし発見、岩手から。「家と人。」』という雑誌から野田坂伸也氏の記事「風景と樹木」を抜粋し、転載させていただいておりましたが、今回はふたたび「花林舎動物記」に戻り、第20回「ネズミは至る所に(1)」をお送りいたします。

    第20回「ネズミは至る所に―(1)」

    ネズミの足裏の感触
     ある年の真夏の夜、この地では珍しく熱帯夜で私は肌着一枚で何も掛けずに寝ていました。夜中に何かが腹の上をトットットと走って行ったような気配で目を覚ましました。真っ暗な中で、目が覚めているのか夢の中なのかも定かではなくぼんやりしていたようでしたが、また眠りに落ちてしまいました。ところが次の日の夜は、床についてどれくらいたったでしょうか、まだ意識がはっきりしている時に昨夜とまったく同じ感触で、何者かが腹の上をトットットと駆けて行きました。しかも、行ったと思ったらすぐにまた戻ってきて、また腹の上を駆けて行きました。柔らかいとても小さい足裏の感触が生まれて間もない人間の赤ん坊の掌のようでした。このような小さな足裏を持っていて、夜中に家の中を走り回る動物はネズミ以外に考えられません。私は飛び起きてパッと電気をつけました。
     いました。やっぱりネズミでした。小さい灰色のネズミが急いで開いていた押し入れの中に駆け込む姿が見えました。ハタネズミでした。
     我が家には2種類のネズミが住みついています。一つはイエネズミ(クマネズミとも言う)でこれは街で普通に見られるネズミです。尻尾を含めない体長が20センチほどになりますので、成長したクマネズミはちょっと怖い感じがします。もう一種は小型のハタネズミで、畑や牧草地や山林に住んでいて、冬にチューリップの球根などを食べてしまうのは、たいていこのネズミです。いろんな悪さをしますが、姿は可愛らしく怖いという感じはありません(このほかにどうもハツカネズミではないかと思われるとても小さいネズミもときどき見かけますが、はっきりしません)。
    ハタネズミ



     ハタネズミは、夜になると我が家の家の中を走り回って穀物やお菓子を食べているようです。また、本の後ろなどに大豆や小豆が転がっていることがあり「どうしてこんなところにあるんだろう」と妻に聞くと、「それはきっとネズミでしょう」と言われてネズミも食べ物を保管しておく習性があるのだと知りました。
     腹の上をネズミが走り抜けた経験は残念ながらその時だけですが(布団を掛けて寝ている時に走っていても気がつきませんから実際にはもっと頻繁にあったのかもしれません)、自動車を運転しているときに足の甲の上を往復されたことがあります。これも感じからしてハタネズミだったと思います。以前会社で同僚だった女性が、車を運転中にハチが飛び込んできたので恐怖のあまりパニック状態になって、対向車線に飛び出してしまったことがあったそうです。幸い、交通量の少ない場所で向こうから来る車がなかったので事故にならないですんだそうですが、運が悪ければ即死につながる行動です。こういうことにならないように、真に危険な動物とそうではない動物とを区別し、むやみに「キャーッ」と金切り声をあげない人間になるような教育が必要です。私はもちろんネズミが足の上を歩いたくらいは何でもありませんから、そのまま運転を続けました。家に帰ってから座席の下などをのぞいてみたのですがネズミは見つかりませんでした。

    ハタネズミの巣
     我が家の暖房は薪ストーブですが、割った薪を今は2年間積んで乾燥させています。一年間では日の当たるところだといいのですが、直射光が当たらないところでは十分に乾燥しないようです。薪を取り崩しているとときどき中からネズミの巣が出てきます。薪の隙間につくっている巣ですから大きいのはありません。全てハタネズミの巣だろうと推測しています。巣の材料は、繊維状の木の皮、落葉、ビニールのひも、布の切れっぱしなどですが、どこから持ってきたのか軍手が一つ丸ごと使われているのがありました。これらの巣は多分、子育て用の巣でしょう。一度だけですがまだ目も開いていない、赤裸の子ネズミがキーキー泣いている巣が見つかったことがあります。
    道具箱の後ろにあったネズミの巣。青大将がひそんでいた。 そのほかいろいろな場所で巣が見つかりますが、今は書類や資料置き場になってしまいめったに行かなくなった事務所の本棚を整理していたら、文庫本の後ろにネズミの巣があったのには驚きました。文庫本は高さも幅も小さいので少し手前に出して並べて置いたのですが、その裏の5センチほどの空間に巣をつくっていたのです。よくこんなところを見つけたものです。
     古い物置小屋を壊すことになって、棚の上からカナヅチなどを入れておく道具箱を下ろしたらその後ろに、これは珍しく大きい巣がありました。大体幅30センチ、奥行き10センチもありましたから子育て用ではなく、棲息用の巣だったのでしょう。あるいはクマネズミの棲家だったのかもしれません。大部分は落ち葉で木の皮やビニールのひもも交じっていました。ネズミにとっては家でも、人間が見ればごみですから捨てようと思って、素手でふんわり重なっている落葉を握りました。すると、ひどく薪を積んだ隙間につくられたネズミの巣。ネズミの巣近くに蛇のヌケガラ。弾力のあるゴムホースのようなものをぎゅっと握ってしまったのです。思いもかけないものの感触にびっくりしてパッと手を引っ込めたのですが、やがてそこから1メートルを少し越えるくらいのやや小さめの青大将がゆっくりと姿を現し、「せっかくいい気持ちで寝ていたのにひどいなあ」というような表情で2~3秒私を見つめ、それからゆっくりと落ち葉の中にもぐりこみ、棚板の隙間から逃げて行ってしまいました。もしかすると巣の中にいたネズミを腹の中に納めて、消化し終わるまでそこで寝ているつもりだったのかもしれません。それにしてもマムシでなくてよかった、と思い出すと背筋がぞっとします。


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