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  • 花林舎動物記 第5回 妄想的汚水浄化生態園(1)

    2008年10月31日花林舎

     6月から「花林舎動物記」という楽しい動物のお話を読み切りで掲載しています。この「花林舎動物記」とは、滝沢村にある(株)野田坂緑研究所発行(所長 野田坂伸也氏)の会員限定情報誌「花林舎ガーデニング便り」の中で最も人気がある連載記事です。今月は第5回「妄想的汚水浄化生態園(1)」です。


    第5回 妄想的汚水浄化生態園(1)

     前回で述べたように、ボーフラやオタマジャクシは汚水を浄化する力を持っていますが、その他にもこういう働きをする生物はたくさんいるはずです。
     こういう目に見える動物や植物を使って汚水を浄化するようにすれば、微生物を使う活性汚泥法などより効率は劣るでしょうが、面白くて生態学の勉強もできる施設ができるでしょう。
     いくつか克服しなければならない課題もありますので、今のところは〝妄想的汚水浄化生態園〟としておきましょう。

    汚水浄化を担う動物
     汚水浄化作用にかかわる生物は動物を主体としますが植物も利用します。微生物は自然に発生してくるもので十分でしょう。酸素を吹き込む、などの補助的な手段は自然エネルギーを利用できる範囲で使うこともあります。年間通して汚水が発生する場合は暖房が必要となりますが、これは最近岩手県で開発された木材チップストーブを使うことにします。
     汚水浄化に活躍してもらう動物としては次のようなものを考えていますが、研究が進めばまだまだ多くのものが現れるでしょう。
    a―昆虫・他...ハエ(ウジ)、ハナアブ(尾長ウジ)、蚊(ボーフラ)、ユスリカ、トンボ(ヤゴ)、ホタル、イトミミズ
    b―貝類...タニシ、カワニナ、モノアラガイ、カラスガイ、ジャンボタニシ
    c―両棲類...カエル(オタマジャクシ)、サンショウウオ(オタマジャクシ)
    d―エビ類...ヌマエビ、手長エビ
    e―魚類...メダカ、グッピー、カダヤシ、金魚、フナ、ドジョウ
    f―鳥類...アヒル、アイガモ、スズメ
    g―コウモリ
    h―哺乳類...豚、山羊、羊
     植物は水面に浮かぶタイプのものを主としますが、動物の隠れ家をつくるためには水辺や水中に生えているものも必要になるでしょう。

    動物たちの連係プレー
     さて、この汚水浄化生態園(以下「浄化園」と略す)は、全体が透明なプラスチックのドームで覆われています。これは動物を逃さないようにするためと保温のためです。
     汚水源は一般家庭とします。つまり、水洗便所、台所、風呂などからの汚水が流入してきます。浄化園は汚水を自然の力で流すため、できれば南面の緩い勾配のある土地を選びます。

    ≪第1ゾーン≫
     ここはやや深い溜池で、流れてきた汚物はまだ原形を保ったままここにたどり着きます。ウンチなどというのは思いのほか頑丈なもので、数百メートル流れてきても壊れずにプカプカ浮いています。野菜屑なんかも混じっていますから、オエーッというような光景です。臭気もひどいですから、この溜池には半透明の蓋をしてあります。
     まあしかし、見学者の方には蓋を持ち上げてお見せすることにしましょう。おお、すごいですねえ。こんなにドロドロの汚物の中で気持ちよさそうに泳いでいる虫がいます。長い尾のついた白いウジです。ハナアブという昆虫の子供です。こんな光景を見ると、「神はこの世をあまねく生命で満たした」ということが実感されます。
     池の緑の少し乾いた汚物の中には、ハエのウジもうごめいています。目には見えませんが、様々の嫌気性微生物も活動しているに違いありません。この池は急速にヘドロが溜まりますので、底に配管して暖かい空気をブクブクと吹き出させ、ヘドロを分解させてやる必要があります。
    ≪第2ゾーン≫
     溜池から流れ出した水は、浅いコンクリートのU字溝の水路の中を流れていきます。底に石を敷き詰めてあるのですが、その上に黄灰白色の綿のようなものがびっしりと生えているので、石は見えません。これはミズワタ(水綿)といって一種の微生物です。汚い水が流れる場所に発生します。ここもドブの臭いがします。
     しかし、気をつけて見て下さい。この水路の始めの辺りと、200メートル流れてきた終端の辺りでは、ミズワタの量がずい分違うでしょう。終わり付近はミズワタはほとんどありません。それだけ水はきれいになっているのです。
    ≪第3ゾーン≫
     第3ゾーンも水路ですが、第2ゾーンより幅が広くなり、底は土で出来ています。水深は浅いところで10センチ、深いところは30センチですが、浅いところが約80%です。浅い方が浄化力が高いからですが、いろいろな生物の棲家が必要なので深いところも造っておきます。
     この水路の始まりの辺りの底を見ると、泥の中に糸のように細い赤いミミズが半身を埋めて、上半身をユラユラと動かしているのが見えます。イトミミズです。この小型のミミズは金魚やメダカやエビの大好物で、私は小学生の頃、毎日採って来ては金魚にやっていたのですが、その連想からソーメンを食べられなくなってしまいました。イトミミズもかなり汚れた水域に棲んでいます。
     この辺りから、様々な生物が姿を見せます。オタマジャクシもボーフラもタニシもドジョウもいます。
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    ボーフラの親の栄養源
     ところで、ボーフラの親である蚊のメスは動物の血を吸わないと卵が出来ません。これはどうしたらいいでしょう。
     実は浄化園の中央は小高くなっていて、しゃれた小さい温室のような建物があります。外から地下道を通って入れるようになっています。周囲はガラス張りですから、浄化園の全体が見渡せてなかなかいい眺めです。
     ここに1週間に1回、夕方になると数人の人がやってきて酒盛りします。日本酒もビールもウィスキーもワインもたくさんあり、ツマミも豊富で好きなだけ飲んだり食べたりしていいようです。
     全員、大の酒好きでしかもしばらく酒を断っていたらしく、狂ったように呑んでいるのですが、中には何故か必死にこらえて水ばかり飲んでいる人もいます。
     温室は暑いらしく、皆だんだん衣服を脱いでステテコだけになっています。3時間たち、4時間たつと、さすがの酒豪たちも泥酔して熟睡してしまいました。すると、音もなく四方の窓が開き、そこから雲霞のごとき蚊の大群が侵入してきて、いっせいに酒豪たちから血を吸い始めました。血ぶくれの蚊達は、ヨロヨロと外へ飛び出していきます。こうしてまた大量のボーフラが誕生するのです。
     この酒豪たちは、実は酒飲み運転で殺人を犯した囚人たちで、これは恐怖の「蚊責刑」だったというわけです。(続く)

    第4回 ボーフラとオタマジャクシの知られざる効用
    第3回 哀しきマムシ
    第2回 アオダイショウは可愛い
    第1回 ナメクジ退治