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  • 第11回刺されても恐れず憎まずスズメバチ〈その3〉

    2009年4月28日花林舎

    花林舎動物記
     平成20年6月から「花林舎動物記」という楽しい動物のお話を読み切りで掲載しています。この「花林舎動物記」とは、滝沢村にある(株)野田坂緑研究所発行(所長 野田坂伸也氏)の会員限定情報誌「花林舎ガーデニング便り」の中で最も人気がある連載記事です。今月は第11回「刺されても恐れず憎まずスズメバチ〈その3〉」です。

    第11回刺されても恐れず憎まずスズメバチ〈その3〉

    スズメバチは何を食べるのか
     ミツバチが花の蜜と花粉を主食にしていることはよく知られていますから、ハチはどの種類でも蜜を吸って生きているのだろうと考えている人が多いと思いますが、スズメバチは肉食で他の昆虫を狩って餌とし、幼虫もそれで養っているのです。たいていの昆虫を食べ、虫類の王者のようなカマキリやクモさえもオオスズメバチには簡単に食われてしまうというのですから驚きです。
     虫を狩る時の主たる武器は毒針ではなく強力なアゴだそうです。私を襲ったキイロスズメバチはその強いアゴでしっかりと私の額に噛み付き、払い落されないようにしておいてから毒液を注射したのですから、まことにケンカ慣れしているというか、格闘技の達人のようなところがあります。
     ところで、ふと思ったのですがハチを払い落とさず心ゆくまで刺すに任せておいたらいったい何秒くらい刺しているものなのでしょうか。またその時はどれくらい腫れるものでしょうか。わたしはその動物実験に自分の身体を提供する勇気はありませんが、そんなことを思いついてはかわいそうな動物達に酷い実験を施している医学研究者が世界中に無数にいます。
     思えば、私達は中学や高校でパヴロフの条件反射というものを習って、1つ賢くなったような気になっていたのですが、その真理を見出すために、胃に穴を開けられ苦痛の内に死んでいった犬達のことも同時に教えられなければならなかったのではないでしょうか。

    完成した巣

    完成した巣。




     スズメバチは他の昆虫を餌にするだけでなく自分より弱いほかの種類のハチの巣を襲い、その幼虫や卵を食べてしまいます。これは1ヵ所で大量の餌が得られるのですから、実に効率のいい食料調達法です。同じ習性の生物を餌にするわけですから、いつ頃襲えば最大の量が得られるか、などよくわかっていて都合がいいのでしょう。
     このように同属の生物を餌にするというのは、鳥の世界にもヘビの仲間にも見られ、人間も古今東西あらゆるところで弱者は強者のえじきになってきました。現代日本の格差社会では、それがますます激しくなっています。
     私は残念なことにハチが虫を狩っているところは1度しか見たことがありません。それは畑のキャベツについていた青虫をキイロスズメバチが噛み切って肉団子にしているところでしたが、それからハチを駆除しないで保護することにしたのです。
     しかし、スズメバチもアシナガバチもたくさんいるのに青虫は一向に減りません。害虫を他の虫によって制するというのはそんなに簡単なことではないのです。
     一般の虫についても最盛期に発生する数たるやたいへんなもので、夏の夜に車で帰ってくる途中、水田と森の間の道にさしかかると、ライトの光の中に砂嵐かと見まがうばかりの無数の虫共が浮かび上がり、車のフロントガラスに次々とぶつかってきます。我が家の近くには毎年ヨダカという虫を食う鳥が渡って来ますが、これだけ虫がいればヨダカが100羽いても楽々と生きていけるでしょう。
     スズメバチは肉食ですが甘いものも好きで、蜂蜜や砂糖を溶かした液をペットボトルに入れて小窓をつくって開けておくと、その中に入って出られなくなり死んでしまうため、山林作業の予定地にこのペットボトルをたくさんぶら下げておくとスズメバチを駆除できるそうです。
     2~3年前、秋の終わりに我が家に入り込んだアシナガバチが数匹居間の天井に潜んで生きのび、天気のいい暖かい日の食事時には食卓の上に降りてくるのです。きっと食べ物の匂いが天井に昇っていくので、餌にありつけると思って降りてくるのでしょう。ハチを見つけるとミカンやリンゴを切って皿の上に置いてやるのですが、ハチはすぐにかぶりついて汁を吸い、またゆっくりと天井に舞い上がっていきます。でも越冬はできないのか正月を過ぎるころには降りてくるハチはいなくなり、淋しい思いをしました。皿の上のハチを見ていると、ハチは何10万種とある昆虫の中でも、もっともスタイルの美しいものの1つではないだろうか、という気がしてきます。
     以前小学校の運動会は秋に開催するのが慣例でしたが、このころはスガリ(地蜂・クロスズメバチ)が多くなる時期で、食べているリンゴやミカンジュースにとりついて汁を吸おうとしますので、誤ってハチを飲み込みそうになります。もしハチを飲み込んでノドを刺されたりしたら、ノドが腫れ上がって呼吸困難になるのかもしれず大変危険なのです。
     またよく外に干してある洗濯物に取り付いていて、まだ幼稚園に通っていた下の娘が靴下を履いた途端に足を刺されたことがあります。

    スズメバチ果てて山家に冬が来る
     さてまた休憩室のキイロスズメバチの話に戻ります。
     営巣がいつ頃まで続いたのか、はっきりとはわかりません。9月18日(2005年)に巣から3メートルくらいのところで刺されてから、5メートル以内には近寄らないようにしていましたし、10月には仕事が忙しくて日中家にいることが少なかったせいもあります。多分、9月末あたりがハチの数も1番多く、動きも活発だったのではないかと今は考えています。
     10月中旬頃からハチの数が急速に減ってきました。月末に妻が「スズメバチが幼虫を巣から引き出して捨てている」と言いました。そんな子供殺しをするのだろうか、と信じられなかったのですが、行ってみると確かに丸々と太った白い幼虫が20~30匹ほど巣の下に散らばっています。なぜこういうことをしたのかわかりませんが、もちろんそのようにせざるを得ない事情があったのでしょう。
     11月に入るとハチの数はさらに減って、巣にへばりついているのが1~2匹、巣から飛び立つのも帰ってくるのも1分間に1匹くらいになりました。しかし、時には10匹ほどのハチが巣の外側にくっついていることもありました。もう動く力も無さそうで、ただへばりついているだけです。そして翌朝行ってみるとそのうちの何匹かは死んで下の地面に転がっています。生きているころはあんなに勇ましく猛々しかったハチも死ぬと腰が曲がり、干からびたようにクシャとなってしまうのです。
     こうして日ごとに減っていくハチの最後の生き残りは巣房の入口の中に身を潜めたり、入口の外側に取り付いて、最後まで巣を守ろうとしているようでした。それは落城寸前の城を食べ物も無くなって餓死しそうになりながら、気力だけで守り抜いている兵士のようでした。
     そして11月23日、巣にしがみ付いていた最後の2匹がとうとう死んで落下してしまいました。

    死んで巣の下に落ちていたスズメバチ

    死んで巣の下に落ちていたスズメバチ。

    必死に日当りに出てこようとしているスズメバチ

    巣の下に落ちて、
    必死に日当りに出てこようとしているスズメバチ。
    翌日には死んでいた。


     この年は冬の訪れが早く、11月9日に初雪があり3センチ積もりました。その後月末までに2回雪が降り、12月の初めに根雪になりました。例年より1ヵ月早い真冬の到来です。
     我が家のキイロスズメバチの巣はちょうどラグビーボールくらいの大きさになりましたが、まるで狂気のように、あるいは猛烈社員のように働き続けて完成させた巣は、2ヵ月後には無人の巣になり、どこかで越冬している女王蜂以外のハチは全て死に絶えてしまうのです。巣の下に倒れているハチの数倍か10数倍のハチは、飛んでいった先のどこかで体力が尽きて、再び帰ることはありません。
     ハチの短い一生、働き詰めの一生は何のためなのか、と現代の日本人は考えてしまいますが、つい50年前まで山村の日本人の多くは、ハチと同じような生活をしていたことを60代以上の庶民は想い出します。

    参考文献:中村雅雄「スズメバチ」八坂書房2000年発行


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