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  • 第14回山羊を飼う③

    2009年8月19日花林舎

    花林舎動物記
     平成20年6月から「花林舎動物記」という楽しい動物のお話を読み切りで掲載しています。この「花林舎動物記」とは、滝沢村にある(株)野田坂緑研究所発行(所長 野田坂伸也氏)の会員限定情報誌「花林舎ガーデニング便り」の中で最も人気がある連載記事です。今回は第14回「山羊を飼う③」です。

    第14回山羊を飼う③

    牝山羊の悲劇
     さて、これまでの経過を簡単に振り返ってみますと、①85年5月に山羊2頭を連れて来る。②86年3月6日に仔山羊2頭生まれる。③86年9月14日に2回目の仔山羊が2頭生まれる。
    山羊 ということで、このままだと親山羊を含めて6頭になっていたはずです。しかし、こんなに多くなると餌にする草を集めるのも容易ではなく、農家ならともかく会社勤めをしながら飼うのは困難になってきました。そこで誰か山羊をもらってくれる人がいないだろうかと探していたら、50キロくらい離れたところにある観光地で山羊を飼っているところがあり、そこの社長さんが好運にも知り合いでしたので、頼んで引き取ってもらいました。ちょっとの間ですが育てた山羊達ですから気になって後で見に行ったのですが、他の山羊に苛められている様子もなく、元気でしたので安心しました。
     こうして3年目の冬も2頭でしたので餌も何とか集めることができました。3回目の出産は87年の4月の予定でしたが、このとき悲劇が起こったのです。
     4月5日頃までは何事もなく順調のように見えました。牝山羊は元気で腹が大きくなり、以前の例や日数を計算してみると、もう明日にも生まれるだろう、明朝見たら小さい仔山羊がいるんじゃないか、と思っていたのです。ところが予定日をすぎても生まれず、腹はますます大きくなり、牝山羊は次第に苦しそうな表情になり、元気が無くなって来ました。どんな原因かわかりませんが仔が生まれないのです。これは大変なことになったぞと思い、近所の獣医を呼んで診てもらいました。しかし、彼は自信無さそうに首を振って「何もしないよりはいいか」という感じで注射を1本打っただけで帰ってしまいました。
     その翌朝小屋に行って見ると牝山羊は冷たくなって横たわっていました。こうして、お姫様のようにきれいでおっとりしていた牝山羊は、わが家に来てからたった2年で彼岸の地へ旅立ってしまいました。

    号泣する牡山羊
     死んだ山羊をそのまま小屋に置いておくわけにもいきませんから、運び出して山に埋葬してやりました。仔山羊達もいませんから、広い小屋には牡山羊1頭だけになりました。餌をやると妻子を追い払って独り占めにしていたあの横暴な山羊です。この山羊が牝山羊が死んで、死体を取り除いた直後から、「オー、オー」と昼となく夜となく吠えるようになりました。なんと泣いているのです。
     妻を愛しているようには見えず、暴君そのものの気性の荒い牡山羊がオー、オーと吠え続けるのは全く意外でした。しかし、1日中その声を聞かされる私達は二重の意味で辛く、耐えられなくなってきました。二重の意味とは、暴君山羊の率直な悲しみの声が、私達の心をかきむしる、ということと、もう1つは、ただただうるさい、ということです。私の家族だけならうるさいということは我慢できたのですが、隣近所の人たちにとっては、とても我慢できない騒音だろうと推測されます。
     かわいそうですが処分するしかありません。玉山村の方に山羊を飼育している人がいる、と聞いてその人に頼んで引き取ってもらうことにしました。当日は必死になって抵抗する山羊の角を持って迎えにきた小型トラックに引っ張りあげ、縛りつけて見送りました。私にあんなに反抗的だった牡山羊が、最後の時には「行きたくないよう。ここに居たいよう」と言うように暴れたのです。

     それから数ヵ月後、この人に会って山羊の様子を聞くと淡々と「あの山羊は暴れてばかりいてしようがないから殺してしまったよ」と言いました。何と言うことでしょう。妻に死なれ、飼主に見捨てられて、あの山羊は生きる張り合いを無くしたのでしょう。それにしても、あんなに妻子に対して横暴で利己的に振舞っていた牡山羊が妻の死によってあんなに大きな衝撃を受けるとは、思いもかけないことでした。
     人間にもこういう人がいます。
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    〔付記〕― 高速道の山羊
      この山羊が死んだ年に、高速道の法面の草を山羊に食べてもらってきれいにしているところがあると聞いて見に行きました。栃木県の鹿沼というところで日本道路公団の職員の人が試みにやっていました。柵を造ってその中に山羊を放し、そこの草を食い尽くしたら柵を移動するのです。単調で味気ない法面に白い山羊が数頭いるだけで、そこの風景がまるで生き生きと見えて、私は感動しました。
     柵の移動とか、飲み水の補給とか、草が枯れた冬にどうするのかとか、いくつかのわずらわしいことはあるでしょうが、お役所がこんな試みをするとは楽しいではありませんか。お役所にぐっと親しみを感じます。
     山羊、羊、牛などを雑草管理に使うという試みは、細々とではありますが今も行われています。アイガモ(アヒルとカモの合の仔)を水田に放して雑草と害虫を駆除する農法は日本を発して今や東アジアに広く普及しています。
     猿の害に悩む村で、犬を放して猿を追い払うことも始まりました。
     何でも機械や農薬で片付けてしまうよりも私はこんなやり方が好きです。
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           高速道の法面の雑草を食べる山羊達


    第13回山羊を飼う②
    第12回山羊を飼う①
    第11回刺されても恐れず憎まずスズメバチ〈その3〉
    第10回刺されても恐れず憎まずスズメバチ〈その2〉
    第9回刺されても恐れず憎まずスズメバチ〈その1〉
    第8回ウメ太郎は何処に〈その2〉
    第7回ウメ太郎は何処に〈その1〉
    第6回妄想的汚水浄化生態園(2)
    第5回 妄想的汚水浄化生態園(1)
    号外編 原種シクラメン・ヘデリフォリュームの紹介
    第4回 ボーフラとオタマジャクシの知られざる効用
    第3回 哀しきマムシ
    第2回 アオダイショウは可愛い
    第1回 ナメクジ退治