風景と樹木
平成20年6月から「花林舎動物記」という楽しい動物のお話を読み切りで掲載しています。 「花林舎動物記」とは、滝沢村にある(株)野田坂緑研究所発行(所長 野田坂伸也氏)の会員限定情報誌「花林舎ガーデニング便り」の中で最も人気がある連載記事です。
「花林舎動物記」は数回お休みとなりますが、今回も『すこやかな暮らし発見、岩手から。「家と人。」』という雑誌から野田坂伸也氏の記事「風景と樹木」を抜粋し、転載させていただいきます。
今回は第8話「ベニヤマザクラ」をお送りいたします。
ベニヤマザクラ
山にも里にも名桜あり
3月末ごろ、東京で桜が咲いたというニュースがTVや新聞を賑わすと、日本全国が春になったような錯覚に陥るが、このころ岩手ではまだ冬と春が行きつ戻りつしていて、ドサッと雪が積もることも珍しくない。
盛岡周辺で桜が満開になるのは、それから1ヵ月後の4月下旬である。岩手でも花見の名所の桜はほとんどソメイヨシノであるが、このころ山ではベニヤマザクラが咲く。
ベニヤマザクラには「オオヤマザクラ」「エゾヤマザクラ」と、別名が2つあるが、赤味の濃い花の色からつけられた「紅山桜」という呼び名が、その姿にもっともふさわしい。
関東から南に住む人の大半はこの桜を見たことがないだろうと思うが、ソメイヨシノなど足元にも及ばない美しい桜である。
ただし、野生種であるベニヤマザクラは、花色、樹形、花着きの良し悪し、開花と展葉の時期などかなりの変化があり、すべての個体が美しいわけではない。
しかし、本当にため息が出るほど美しい個体が、どの町や村にも大抵数本以上(隅々まで見て回っているわけではないから、実際にはこの何倍も)見つかる。
高校の校門前で、この学校出身の美女を全部集めて、そのエッセンスをまとめたような輝きを放っていたベニヤマザクラ。
あまり冴えない閉鎖間近のような工場のフェンス沿いに点在して、場違いのような美しさを誇っていたベニヤマザクラ。
その前をよく通る郊外のラーメン屋の裏に、突然妖艶な花の雲となって現れ、たちまち散ってしまうベニヤマザクラ。
普段人が訪れることもない開拓地の畑の外れに一本だけ、辺りを圧して気高く咲いていたベニヤマザクラ。
冬には強風吹きすさぶ山頂に山の春の光の精のようにキラキラ光って立っていたベニヤマザクラ。
―――山里や自然の山地で巡り会う桜は、その花に加えて、背景となる風景と光の状態がマッチした時、思わず息をのみ、立ち尽くすほどの美しさを示す。































































































