風景と樹木
平成20年6月から「花林舎動物記」という楽しい動物のお話を読み切りで掲載しています。「花林舎動物記」とは、滝沢村にある(株)野田坂緑研究所発行(所長 野田坂伸也氏)の会員限定情報誌「花林舎ガーデニング便り」の中で最も人気がある連載記事です。
先月に引き続き今月も『すこやかな暮らし発見、岩手から。「家と人。」』という雑誌から野田坂伸也氏の記事「風景と樹木」を転載させていただいきます。
盛南開発地区の伐採された大エゾエノキ
斜めの道と大エゾエノキ
盛岡市の玄関口、JR盛岡駅前一帯の繁華街から雫石川一本隔てた対岸は、ついこの間まで農家が散在する田園地帯であった。そこに以前の面影はかけらほども残っていない新しい都市造りが着工され、みるみるその範囲を拡大し、やがて完成しようとしている。一般には盛南開発地域と呼ばれている。
ほぼ碁盤の目状に直角に交差している街路の中に、ただ一ヵ所斜めに走っている道路がある。元々は農道であったがこの道路の延長線上に岩手山の美しい姿が望まれることから、その景観を残し新しい街のシンボルの一つとするために、特例として既存の路線がそのまま使われることになったのである。心憎い配慮であった、と思う。
この道路が盛南開発地区を通る区間のちょうど真ん中あたりに1本の巨木がそびえ立っていた。道路から10メートルほどのすぐ近くにあり、樹高20メートル以上、太い幹が直立して伸び均整の取れた枝ぶりは威厳と気品に満ちてここを通る人々を魅了した。冬の姿も良かったが、新緑の頃から秋の落葉前までの圧倒されるような堂々たる姿は、大木がどれだけ大切なものであるか見るたびにいつも思い知らされていた。幹肌はケヤキに似ているが枝の形はコナラに似ていて、よほど樹木に詳しい人でなければこの木の名前は知らないまま眺めていたであろう。もし盛南開発地域が「景観に十分な配慮をして計画を進めていた」のであれば、だれが見ても全区域の最高のシンボルツリーとして絶対に残さなければならない樹木であった。その巨木が切り倒されてしまった。盛南開発史上最大の愚挙の一つであると言いたい。




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